西洋絵画の500年・・・バロック、若者たち、女詐欺師、残酷な美女、欲望に溺れる女
大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』272回
バロック美術は、カラバッジョに始まる。15世紀、ルネサンスの調和的美に対して、17世紀、カラバッジョは、光と闇の対比、写実主義、劇的表現を特色とする絵画を始めた。
【カラバッジョの破滅的生涯】
カラバッジョMichelangelo Merisi da Caravaggio1571-1610)は、北イタリアベルガモ近郊カラバッジョ生まれる。6歳の時父が死に、13歳の時ミラノで画家の修業を開始し、1592-93、20代でローマに出る。作品が人気となり支援者を得る。1596年25歳の時、デル・モンテ枢機卿が『女占師』(1596)を買い上げ、枢機卿の館に住む許可を与えられ、上流階級に紹介され、運命の扉を開く。
カラバッジョの生涯は彼の絵画表現以上に激情的である。誹謗中傷、口論、決闘、相次ぐ無法行為のために1600年から1607年、警察と裁判所の監視下に置かれる。1506年、35歳の時、人を殺害し死刑判決を受ける。絵を描いて逃走資金を作り、ナポリへ逃亡。支援者の援助を受けながら、マルタ島、シチリア島へ逃亡をつづける。恩赦を得るためローマへ戻る途中38歳で病死した。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【闇の絵画、バロック画家の死】1610年、カラバッジョ38歳。1660年、ベラスケス61歳。1640年、ルーベンス62歳。1669年、レンブラント63歳。1652年、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール58歳。1675年、フェルメール43歳。
【バロック、いかさま師、リアリズムの探求】
カラバッジョ「いかさま師」1595ルーヴル美術館
ジョルジュ・ド・ラトゥール「ダイヤのエースを持ついかさま師」1625年ルーヴル美術館、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『女占い師』1630メトロポリタン美術館
【バロック、欲望に溺れる女、人殺し女、リアリズムの探求】
フェルメール『恋文』
【カラバッジョ、艶めかしい青年、果物籠をもつ少年】カラバッジョ、艶めかしい青年は、凋落を意味する。朽ち果てる果物。命は儚く短い。この世の命は儚く。この世の美は儚く脆い。
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1
【カラバッジョ「音楽家たち」1595-6年】3人が楽器を演奏したり歌ったりしている。4人目の天使はブドウの房に手を伸ばしている。中心となるリュート奏者は、カラバッジョの友人であるマリオミンニティ、そして隣の読書をしている人に対面している人が作者カラヴァッジョらしい。少年たちが愛を祝うマドリガル(牧歌的叙情短詩)を練習している、主演奏者のリュート奏者の目は泪に濡れていた。その歌は愛の喜びよりむしろ悲しみを表している。前景にあるヴァイオリンはこの絵画の隠れた5人目の人物を連想させる。
カラバッジョは1595年、枢機卿一家フランシスコ・マリア・デルモンテの要員に加わった。「音楽家たち」は枢機卿への画家の初めての作品だと推定される。
2
【ジョルジュ・ド・ラトゥール「ダイヤのエースを持ついかさま師」1625】現代のいかさま師はだれか。医者、弁護士、政治家、僧侶、陽明学者、政治学者、税理士、コンサルタント、営業職、ハウスメーカー、不動産業者。
3
【フェルメール『信仰の寓意』1672】女は、天井から青いリボンで吊り下げられたガラス玉をうっとり見つめる。壁面の画中画は、磔刑図。足元に地球を踏みつけ、床にリンゴ、血を吐くヘビがいる。これは、罪の寓意。この絵画は、何を寓意しているのか。
『絵画の寓意』(『絵画芸術』)とともに、フェルメールが描いた現存する二点の寓意画のうちの一つ。
『イコノロジア』からの寓意
フェルメールが絵画に表現した寓意は、イタリア人美術学者チェーザレ・リーパが著した寓意画集で、1644年にD.P.ペルスがオランダ語に翻訳した『イコノロジア (Iconologia overo Descrittione Dell’imagini Universali cavate dall’Antichità et da altri luoghi)』に多くを負っている。フェルメールはこの『イコノロジア』からさまざまな記述と図像を採用している。例えば女性の衣服の配色、手の仕草、リンゴ、押し潰されたヘビである。リーパはその著書で、美徳の中でも信仰がもっとも重要であると考える。
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展示作品の一部
カラヴァッジョ「音楽家たち」1597年
こちらは、画面内に高密度で描かれた4人の美少年が印象的な作品。1597年、26歳のカラヴァッジョが、最初のパトロンとなったデル・モンテ枢機卿のために描いた
ニコラ・プッサン「足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ」1655
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『女占い師』1630メトロポリタン美術館
ジョルジュ・ド・ラトゥール「ダイヤのエースを持ついかさま師」1625
ヨハネス・フェルメール「信仰の寓意」1672
ベラスケス工房「オリバーレス伯公爵ガスパール・デ・グスマン」(1587-1645年)
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参考文献
カラバッジョ展・・・光と闇の藝術
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「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」国立西洋美術館・・・フェリペ4世と宮廷画家ベラスケス
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エル・グレコ展・・・天上界と地上界の融合、 「昨夜私は永遠を見た」
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フェルメールと17世紀オランダ絵画・・・ドレスデンの思い出
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ハプスブルク家、600年にわたる帝国コレクションの歴史、国立西洋美術館・・・黄昏の帝国、旅の思い出
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ハプスブルク家、600年にわたる帝国・・・旅する皇帝と憂愁の王妃
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メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年・・・美女の歴史、詐欺師女、残酷な美女、欲望に溺れる女
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西洋絵画の500年・・・バロック、若者たち、女詐欺師、残酷な美女、欲望に溺れる女
https://bit.ly/3hrwK3b
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「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」国立新美術館、2022年2月9日(水)~5月30日(月)
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