美への旅、「異端の奇才——ビアズリー」、運命の女サロメの図像学、洗礼者ヨハネの図像学
大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』第394回
「異端の奇才——ビアズリー」が、三菱一号館美術館で開催されている。異例の予約チケット完売。ラファエロ前派、唯美主義、ロセッティを超える空前の人気である。その魅力の秘密は何か。ビアズリーの魅力は、運命の女(ファム・ファタル)の図像学、洗礼者ヨハネの図像学である。ビアズリーの生涯と作品から考察する。
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
第1章、ビアズリーの生涯と作品(1872-1898)
【ビアズリーの生涯と作品(1872-1898)】16歳、寄宿学校をやめロンドンへ。17歳、測量会社・生命保険会社で事務員として働く。19歳バーンジョーンズを訪問。美術学校夜間授業を受ける。20歳『アーサー王』挿絵を受注。22歳、英語版オスカー・ワイルド『サロメ』挿絵で時の人。23歳ワイルド男色で逮捕。『イエロー・ブック』編集長解雇。25歳肺結核、南仏マントンで死す。
【オスカー・ワイルド『サロメ』1894】ユダヤの王エロドは、自分の兄である前王を殺し妃を奪い今の座に就いた。妃の娘である王女サロメに魅せられて、目を彼女に向ける。その視線に堪えられなくなったサロメは、宴の席をはずれて、預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)が閉じ込められている井戸に向かう。預言者を見てしまう。
【ヨハネに恋するサロメ】そして彼に恋をする。預言者は彼女の忌まわしい生い立ちを詰る。愛を拒まれたサロメはヨカナーンに口づけすると誓う。エロドはサロメに執拗にダンスをしろと要求、何でも好きなものを褒美にとらせると約束。サロメはこれに応じて7つのヴェールの踊りを踊り、返礼としてエロドにヨカナーンの首を所望する。
【邪悪な王エロド】エロドはヨカナーンの首をサロメにとらせる。銀の皿にのって運ばれてきたヨカナーンの唇にサロメが口づけ、恋を語る。これを見たエロドはサロメを殺させる。
【オスカー・ワイルド、人生と藝術の相克、唯美主義の苦悩】(1854年-1900年11月30日)1882年、唯美主義の広告塔としてアメリカ講演旅行。『幸福の王子』1888『ドリアングレイの肖像』1891『ウィンダミア卿夫人の扇』1892『英語版サロメ』1894オーブリー・ビアズリーの挿絵を出版社が採用、ビアズリーとは1年で決別。1895同性愛の罪で2年間服役。56歳フランスで死す。(1854年10月16日- 1900年11月30日)
第2章、運命の女(ファム・ファタル)の図像学、洗礼者ヨハネの図像学
運命の女(ファム・ファタル)の図像学、洗礼者ヨハネの図像学
19世紀ロマン主義、世紀末美術【運命の女(ファム・ファタル)の系譜】
ラファエロ前派は、運命の女神、運命の美女を追求する。ジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』(1851-52)は、絶望のうちに溺死するヒロイン、川に流されながら歌うオフィーリアと、33歳で亡くなったエリザベスの面影が重なる。ロセッティ「プロセルピナ」(1874)は、運命の女ジェイン・モリスの人生を反映する。
ロセッティ『ムネモシュネ』『プロセルピナ』(1876-1882)、ギュスターヴ・モロー『出現』(1876オルセー美術館)、オーブリー・ビアズリー『サロメ、おまえの口に接吻(口づけ)したよ、ヨカナーン』(『ストゥーディオ』1893)、オスカー・ワイルドの英訳版『サロメ』1894
2、ルネサンスの洗礼者ヨハネからどのようにして洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメが生まれるのか
16世紀レオナルドダヴィンチのヨハネからヴェネツィア派を経て、17世紀カラヴァッジョのバロックの残虐趣味、世紀末のロマン主義へと展開した。
【洗礼者ヨハネ】レオナルドダヴィンチ『ヨハネ』1513-16、ティツィアーノと工房『洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ 』1560-70、国立西洋美術館、カラヴァッジョ『洗礼者ヨハネの斬首』『勝ち誇るアモール』油彩、キャンバス、ベルリン国立美術館1602年、『砂漠の洗礼者聖ヨハネ』1604、【洗礼者ヨハネの斬首】カラヴァッジョ『ホロフェルネスの首を斬るユディト』(1598年 - 1599年)「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ 」1607年、油彩、キャンバス、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」(1609年頃)マドリード王宮所蔵、『洗礼者聖ヨハネの斬首』聖ヨハネ大聖堂蔵バレッタ1608、『ゴリアテの首を持つダヴィデ』(1609年 - 1610年)ボルゲーゼ美術館、アルテミシア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を斬るユディト』
本展監修者、河村錠一郎・一橋大学名誉教授。
【河村錠一郎『世紀末の美学』1986】ラファエル前派-世紀末耽美主義のルーツ、2人のイゾルデ-ビアズリーとワーグナー、世紀末とロマン主義-理想の挫折、象徴の美学、アール・ヌーヴォーからアール・デコへ、普遍へ飛翔するエロス。ロセッティとビアズリーとオスカー・ワイルドとワグナー。
一橋大学「芸術と社会」研究会 https://artsandsociety.jimdofree.com/
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【主な展示作品】
オーブリー・ビアズリー《クライマックス》1893年 『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』 Photo: Victoria and Albert Museum, London
オーブリー・ビアズリー《サロメの化粧Ⅱ》1907年 『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』 Photo: Victoria and Albert Museum, London
オーブリー・ビアズリー《愛の鏡》1895年 『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』 Photo: Victoria and Albert Museum, London
オーブリー・ビアズリー《アーサー王は、唸る怪獣に出会う》1893年 『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』 Photo: Victoria and Albert Museum, London
チャールズ・リケッツ「サロメ」1925年 ブラッドフォード地区美術博物館蔵 Photo: Bradford Museums & Galleries / Bridgeman Images
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展覧会情報
【展覧会概要】
「異端の奇才——ビアズリー」三菱一号館美術館、2月15日(土)~5月11日(日)
19世紀末の欧米を騒然とさせた奇才オーブリー・ビアズリー(1872-1898)。初期から晩年までの挿絵や希少な直筆の素描、彩色されたポスターや同時代の装飾など、約220点を通じてビアズリー芸術を展覧する
『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)』との共同企画によりオーブリー・ビアズリーの歩みをたどる本展。1852年に「産業製品の博物館」として設立した『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』には、5000年にわたって人類が創造してきたあらゆる分野の作品280万点が所蔵されている。
ビアズリーの原画を擁する世界有数の国立コレクションで知られるこの博物館の全面協力を得て、ビアズリー作品150点が一挙来日、大回顧展が実現した。出世作のマロリー著『アーサー王の死』や日本でもよく知られるワイルド著『サロメ』、後期の傑作ゴーティエ著『モーパン嬢』をはじめ、約220点を通じてビアズリーの芸術を展覧する。
開催期間:2025年2月15日(土)~5月11日(日)
開催時間:10:00~18:00(祝を除く金・会期最終週平日、第2水・4月5日(土)は~20:00。入館は閉館30分前まで)
休館日:月(ただし2月24日・3月31日・4月28日・5月5日は開館)
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
アクセス:JR東京駅から徒歩5分、地下鉄千代田線二重橋前〈丸の内〉駅から徒歩3分、JR・地下鉄有楽町駅から徒歩6分、地下鉄都営三田線日比谷駅から徒歩3分、地下鉄丸ノ内線東京駅から徒歩6分
入場料:一般2300円、大学生1300円、高校生1000円、小・中学生無料
※障害者手帳をお持ちの人は半額、その介護者1名は無料。
【問い合わせ先】ハローダイヤル☏ 050-5541-8600
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著者プロフィール 大久保正雄 哲学、美学、比較宗教学、図像学。美術評論。著書『ことばによる戦いの歴史としての哲学史』理想社。質疑応答、島薗進×大久保正雄『死生学 ファンタジーと魂の物語』2019、島薗進×大久保正雄『死生学 宗教の名著』2018、島薗進×大久保正雄『死生学 ファンタジーと宗教』2017.島薗進×大久保正雄『死生学 人の心の痛み』、上智大学卒、北海道大学大学院博士課程修了。
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参考文献ビアズリー
カラバッジョ展、国立西洋美術館・・・光と闇の藝術
「ギュスターブ・モロー展 サロメと宿命の女たち」・・・夢を集める藝術家、パリの館の神秘家。幻の美女を求めて
「ラファエル前派の軌跡展」三菱一号館美術館・・・ロセッティ、ヴィーナスの魅惑と強烈な芳香
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」・・・藝術家と運命との戦い、ロセッティ最後の絵画
「クリムト展 ウィーンと日本 1900」・・・黄金の甲冑で武装した騎士、詩の女神に出会う、純粋な愛と理想
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道・・・装飾に覆われた運命の女、黄金様式と象徴派
孤高の画家、フリードリヒ、精神の旅、地の果て、崇高な自然と精神
ロマン主義の愛と苦悩・・・ロマン派から象徴派、美は乱調にあり
美への旅「異端の奇才——ビアズリー」、運命の女サロメの図像学、洗礼者ヨハネの図像学
http:// mediter ranean. cocolog -nifty. com/blo g/2025/ 03/post -100d8a .html
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