空海『秘密曼荼羅十住心論』・・・大日如来は、法界体性智、自性清浄心(阿摩羅識)をもつ
1,密教の謎、仏教史の矛盾
【密教の謎】仏教史の根本矛盾、無我説と輪廻転生、龍樹の中観派と無著・世親の瑜伽行唯識派、仏身論(三身論、法身、報身、応化身)、法身大日如来と即身の相即融一、身密・口密・意密どのように相即融一するのか。『即身成仏義』『秘密曼荼羅十住心論』『秘蔵宝瀹』
五智とは何か。五智如来、大日如来、阿閦如来、宝生如来、阿弥陀如来(無量寿如来)、不空成就如来。『金剛界曼荼羅』『胎蔵界曼荼羅』。大日如来が宇宙の根本原理であり、至高の存在である。【大日如来の5つの智慧(法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智)】を象徴する五智如来。大日如来の知恵、法界体性智は、自性清浄なる大日如来の絶対智、他の四智を統合する智恵である
【事相と教相】密教において「実践」修法・灌頂・真言陀羅尼・月輪観など実践的な修行に対して、「学問」教義を理論的に研究する。
2、空海、旅立ち
【空海の謎】(延暦七788年)佐伯真魚、十五歳、なぜ阿刀大足のもとで学んだのか。十八歳791年大学寮明経科入学。一族の期待「佐伯今毛人、大伴家持」のような官人になる。十九歳792年長岡京式部省大学寮明経科、なぜ退学したのか。山林修行、何故一沙門に出会い学んだのか。24歳『聾瞽指帰』(797)、儒教・道教・仏教の比較宗教学の署、なぜ書かれたのか。804年私度僧・空海がなぜ遣唐使船の留学僧になることができたのか。806年遣唐判官高階遠成に付して『請来目録』を奏上したが入京を許されないのは何故か。留学僧の滞在期間短縮、国禁なのに、809年嵯峨天皇の入京の勅許が下りたのは何故か。816年、最澄と空海は決別するのは何故か。
空海「古の人は道のために道を求める。今の人は名利のため、地位と利益追求のために道(学問)を求める。求道の志は己の道を失っている。」古人、道のために道を求む。今の人は名利の為に求む。名のために求むるは求道の志とせず。求道の志は己を道法に忘るなり。」「叡山ノ澄法師理趣釈経ヲ求ムルニ答スル書」814-816(『性霊集』)この2年後816年、最澄と空海は決別する。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【空海『秘密曼荼羅十住心論』(830) 】淳和天皇の詔勅(天長6)による。日本には諸宗派があり、各の宗派がどのように違い、どのように優れているのか、論じるようにという詔勅である。空海は『大日経』の住心品を中心にして『十住心論』を書いた。
第二住心は儒教、仁義礼智信を五常といい、それを守るのが儒教、この世のことしか考えない。
第三住心は道教、第三住心、嬰童無畏心といい、赤子が母親に抱かれて安心していられるような境地、天に昇って、一切の苦しみのない世界で安心する境地。道教では羽化登仙、蛹が蝶となるように仙人のもとへ行く。仙人になることは、天に昇ること。
第四住心は、唯蘊無我心、声聞乗である。唯蘊無我とは、五蘊だけがあってアートマン(実体)がない、ということを理解する、そのときに出世間心が生じる。我とは、常一主宰なので、そういった我はないと悟る心を意味する。
第五住心は、抜業因種心、縁覚乗に相当する。小乗仏教のなかに声聞、縁覚という二つの乗り物がある。縁とは十二因縁で、それを悟って悟りの境地に至る。十二因縁とは、なぜ生老病死が起こるか、その原因を十二の系列にあげて説いたものである。
第一住心 異生羝羊心
「凡夫狂酔して、吾が非を悟らず。但し淫食を念ずること、彼の羝羊の如し。」下愚は狂酔する。羝羊のように、淫食を求める。上智と下愚とは移らず(『論語』陽貨第十七)。
第二住心 愚童持斎心
「外の因縁に由って、忽ちに節食を思う。施心萌動して、穀の縁に遇うが如し。」下愚は、外の因縁によって、節度を思う。
第三住心 嬰童無畏心
「外道天に生じて、暫く蘇息を得。彼の嬰児と、犢子との母に随うが如し。」天真爛漫な季節、天界に生まれたように蘇る。嬰児と犢子が、母に随うごとし。
第四住心 唯蘊無我心
「ただ法有を解して、我人みな遮す。羊車の三蔵、ことごとくこの句に摂す。」存在するのは唯だ、五蘊のみであり、すべての存在は無我であることを知る。五蘊とは、色・受・想・行・識の精神作用である。
第五住心 抜業因種心
「身を十二に修して、無明、種を抜く。業生、已に除いて、無言に果を得。」十二縁起を知り、無明=因縁の種子を取り除き、業の生を除く。十二縁起(因縁)とは、無明、行、識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死の連鎖である。この有から輪廻転生が生じる。
六住心 他縁大乗心
「無縁に悲を起して、大悲初めて発る。幻影に心を観じて、唯識、境を遮す。」慈悲心に目覚め、唯識説に目覚める。すべての現象は幻影であると知る。唯識瑜伽行派の思想である。仏教の根本的矛盾は、諸法無我、即ち無我説 (四法印)と輪廻転生説との矛盾にある。十二因縁の無明ゆえに輪廻転生が起きる。この矛盾を解くのが唯識説である。輪廻転生する主体は、阿頼耶識である。(無着『摂大乗論』三種の薫習)
第七住心 覚心不生心
「八不に戯を絶ち、一念に空を観れば、心原空寂にして、無相安楽なり。」「不生、不滅、不断、不常、不一、不異、不去、不来」。この八つの不を認識し、空観に徹すれば、心は空寂で安楽である。中観派の思想である。
第八住心 一通無為心
「一如本浄にして、境智倶に融す。この心性を知るを、号して遮那という。」主体と客体の境のない境地。一如、境と智ともに融一する。天台止観の思想である。
第九住心 極無自性心
「水は自性なし、風に遇うてすなわち波たつ。法界は極にあらず、警を蒙って忽ちに進む。」事法界、理法界、両者を止揚した、無自性・空界と現象が共存する理事無礙法界、事物が融通無碍に共存する事々無礙法界に到達する。毘盧遮那仏と一体になる融通無碍の境地。『華厳経』の蓮華蔵世界である。
第十住心 秘密荘厳心
「顕薬塵を払い、真言、庫を開く。秘宝忽ちに陳じて、万徳すなわち証す。」顕薬は塵を払うが、真言は秘密の宝の庫を開く。大日如来、真言密教の境地。秘密荘厳心では、智法身と理法身、知性(ノエーシス)と思惟対象(ノエーマ)、金剛界と胎藏界が一体融合して、神人合一、神の領域(ビオス・テオーレーティコス)に到達する。この智の階梯をいかにして昇るか。最後の境地は、どこにあるのか。これを図示するのが、金剛界曼荼羅である。
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【空海『秘密曼荼羅十住心論』第六住心】法相宗が第六住心にあたる。法相宗では三劫成仏を説き、三大阿僧祇という無限の時間をかけて成仏をするという発想。
【空海『秘密曼荼羅十住心論』第六住心】法相宗が第六住心にあたる。法相宗では三劫成仏を説き、三大阿僧祇という無限の時間をかけて成仏をするという発想。
法相宗の思想では心を八つの識に分ける。眼耳鼻舌身意の六識に、自我意識である末那識と、無意識である阿頼耶識を加え八識。阿頼耶識は知ることのできない不可知の知、阿頼耶識を転換すると大円鏡智となる。末那識を転換して平等性智、意識を妙観察智、前五識を転換して成所作智、【空海『秘密曼荼羅十住心論』第六住心】八識を転換して四つの智慧を得るのが法相宗である。密教では五智を説き、阿頼耶識の上に九識があり、さらに十識である無際智を転換して法界体性智。これが大日如来の智慧。唯識では四智を説き、密教では五智を説き、即身成仏を説く点で、法相宗は第六住心となり。
【空海『秘密曼荼羅十住心論』第九住心】華厳宗では四種法界を説く。その四種の一つが事法界で、普通の物事がそのままあり。それが平等だというのが理法界。事と理が一緒になったのが事理無礙法界で、最後は事事無礙法界。一切のものは縁起によって無碍という、事事無礙法界が最高の境地と認識される。空海『即身成仏義』に「重々帝網なるを即身と名付く」とあり、重々帝網というのは、事事無礙法界の例え。華厳宗は真言宗の前の段階になる。しかし、天台でも華厳でも、大日如来の世界を見ていない。宝の世界に入っていない。
「世界の宗教とお大師さまの十住心思想」大正大学名誉教授 吉田宏晢
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金剛界曼荼羅の五仏、五智如来、仏陀への旅
転識得智、種子薫習
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空海『即身成仏義』、大日如来の知恵 五智如来の知恵
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「空海 KŪKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」・・・大日如来、法界体性智、自性清浄心(阿摩羅識)
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「空海 KŪKAI 」・・・空海の生涯と思想
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空海『秘密曼荼羅十住心論』・・・大日如来は、法界体性智、自性清浄心(阿摩羅識)をもつ
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