ロマン主義の愛と苦悩・・・ロマン派から象徴派、美は乱調にあり
大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』282回
ギリシア人は神々の滅びる時代に人間の姿、形の美しさを頂点にまで高め、ルネサンス人は中世キリスト教が衰亡した時代に歴史的絵画の頂点を極め、あらゆる宗教の終焉の時代18世紀末にロマン主義が現れ19世紀風景画が現れた。*1
ロマン主義は、18世紀の新古典主義に対する反抗から生まれ、古典の美、ルネサンスの美を理想とする美術への反抗、理性に対する感情の反抗である。風景の美、自然の美、理性に対する感情の美、風景画、中世の美、ラファエロ以前の藝術、ラファエロ前派、象徴派、運命の女(ファム・ファタル)の探求へと展開する。ウィリアム・ブレイク(1757-1827)は、神秘的詩人であり、カスパー・ダヴィッド・フリードリヒ(1774-1840)は、絵筆をもつ神秘主義者と呼ばれる。フリードリヒ『雲海の上の旅人』1818は、魂の旅人、この世の果てへの旅人である。
人は、古代の美、ルネサンスの調和の美に魅かれるとともに、ウィリアム・ブレイク、フリードリヒの美に魅かれる。ロマン主義は、古代、ルネサンスの美、古典主義の美と同じ根源から生じる。カール・フリードリヒ・シンケルの新古典主義は、ロマン主義と同じ源泉から生まれる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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★ロマン主義、文学と美術
ロマン主義の先駆は、ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757-1827)である。
ロマン主義は、18世紀の新古典主義に対する反抗から生まれ、ギリシアの美、ルネサンスの美を理想とする美術への反抗、理性に対する感情の反抗である。ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugène Delacroix, 1798-1863) 『民衆を導く自由の女神』1830年『キオス島の虐殺』1824年、『(第四回)十字軍のコンスタンティノープルへの入城』1841年。テオドール・ジェリコー(Théodore Géricault, 1791-1824) 『メデューズ号の筏』1818-19年が絵画におけるロマン主義の代表作である。
ゲーテ、シラーにより疾風怒濤時代(シュトゥルム・ウント・ドランク)、理性・啓蒙中心の古典的文学に対する、感情・情熱の優越を旨とする文学運動が起り、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』1796が書かれた。アウグスト・フリードリヒ・シュレーゲル兄弟は、ドイツ・ロマン派の文芸機関誌『アテネウム』全3巻6冊(1798-1800)を刊行した。カスパー・ダヴィッド・フリードリヒ『雲海の上の旅人』1818。
イギリスのロマン主義は、ウィリアム・ブレイクに始まり、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー、『海の釣り人』1796年、『解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号』1839年。ラファエロ前派、ダンテ・ガブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレイ、へと展開する。
スペイン、ロマン主義絵画の代表作は、フランシスコ・デ・ゴヤ『マドリード1808年5月3日』1814年、
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【マリオ・プラーツ『ロマンティック・アゴニー』1933】ロマン派から象徴派、世紀末デカダン派にいたるヨーロッパ藝術。イタリアの美術史家プラーツ(Mario Praz1896-1982)が、ロマン派から世紀末デカダン派にいたるヨーロッパ19世紀藝術の「退廃の美学」「運命の女(ファム・ファタル)の美学」「腐敗と苦痛の美学」「薄明の美学」を、博引旁証のうちに論じ尽した名著。
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★ロマン派の詩人、ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757-1827)
『無垢と経験の歌』1787年
ウィリアム・ブレイク「毒のある木」寿岳文章訳 William Blake, Poison Tree
私は私の敵に腹を立てた 私は黙っていた 私の怒りはつのった そして私はそれに恐怖の水をかけ 夜も昼も私の涙をそそいだ そして私はそれを微笑みの陽にあて 口あたりのよい欺瞞の肥料で育てた
「毒のある木」は、密教の呪詛調伏、怨敵調伏の真言である。
「一粒の砂の中に世界を見、一輪の花に天国を見るために。掌で無限を握り、一瞬のうちに永遠を掴め。」ウィリアム・ブレイク William Blake詩集『ピカリング草稿』『無垢の予兆』よりAuguries of Innocenceウィリアム・ブレイク
【死生学】一粒の砂の中に世界を見、一輪の花に天国を見るために。掌で無限を握り、一瞬のうちに永遠を掴め。ウィリアム・ブレイク William Blake詩集『ピカリング草稿』。
「無垢の予兆」Auguries of Innocence
To see a World in a grain of sand,And a Heaven in a wild flower,
Hold Infinity in the palm of your hand,And Eternity in an hour.
詩人は1803年、John Schofieldという兵隊と口論になり、国家扇動罪(seditious statements)を行ったとして裁判にかけられる。勝訴するが、詩人に大きく影響した。難解な表現をすることで攻撃的な思想を隠す独自の表現技法を確立。歓喜に充ち溢れる生命を讃える「無心の歌」、無垢を喪失した悲しみの世界を描く「経験の歌」、そして呪縛からの解放を歌う「天国と地獄との結婚」。ブレイク初期の傑作三詩集。
ウィリアム・ブレイク、寿学文章訳『有心の歌、無心の歌』角川文庫
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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★【青い花の乙女を求める旅】ドイツ・ロマン主義の詩人、ノヴァーリス(1772-1801)『青い花』Heinrich von Ofterdingen(1802)
ハインリヒは、ある夜、自分の家に泊まった旅人から不思議な「青い花」の話を聞き、憧れを抱く。その夜、夢の中に青い花が現われ、その花がいつのまにか優しい乙女の姿に変わる。
ハインリヒは、母とともに祖父のもとを訪れるために、アウクスブルクへ旅立つ。道々、同行の人から、物語や詩の話を聞き、ハインリヒにも詩心が目ざめる。一行は十字軍の騎士の居城で、東洋から捕虜として連れて来られた美少女トゥリーマの話を聞き、戦争の悲惨さやむなしさを知ると同時に、未知の世界、東洋に心を惹かれる。
また、洞窟に住む隠者ホーエンツォレルン伯を訪ねたハインリヒは、自分の過去・現在・未来の姿について書かれている書物を見せてもらい、驚く。
目的地のアウクスブルクに着いたハインリヒは、祖父の家で、老詩人のクリングゾールと、その娘の「昇る太陽に傾く百合」のようなマティルデに会う。彼女の顔は、かつて夢に見た、青い花の乙女とそっくりであった。ハインリヒはマティルデに愛を告白し、二人は婚約する。だが、その夜、彼は不吉な夢を見る。夢の中で、マティルデは舟をこいでいる。彼女は突然水に落ち、溺れそうになる。マティルデを救おうとした彼も溺れてしまうのである。ところが、不幸にしてこの夢は現実となって、マティルデは川で溺死してしまう。
愛する人を失ったハインリヒは、巡礼者となってさまよい歩く。ある日、山深い森の中で悲しみに沈んでいると、ふとマティルデの声が聞こえた。その声は、ハインリヒに琴を弾くように勧める。琴を弾けば、ひとりの少女が姿を現わすというのである。そこで琴を弾くと、少女ツァーネが現われる。ツァーネに誘われて森の中の彼女の家に行った彼は、そこで死者たちの世界を訪れる。
やがて、死の国を出て、現実の世界にもどったハインリヒは、イタリアに旅行したり、戦乱に身を投じたり、ギリシアを訪ねたり、あるいは東洋に渡って詩と神秘とを学んだりする。こうして、さまざまな経験を積んだのち、ドイツに帰って華やかな宮廷生活に入った彼は、皇帝の信任も厚く、詩人として輝かしい栄誉を受ける。
「ドイツ文学案内」(朝日出版社)
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★参考文献
*1千足伸行「ロマン主義絵画と聖なるもの」p.213
ノルベルト・ヴォルフ『カスパー・ダヴィッド・フリードリヒ 静寂の画家1774-1840』2006
「ベルリンの至宝展 よみがえる美の聖域」図録、東京国立博物館2005
千足伸行「ロマン主義絵画と聖なるもの」2005
後藤健「古代人は「聖なるもの」をどう感じ表現したか」2005
マリオ・プラーツ『ロマンティック・アゴニー』MarioPraz.RomanticAgony.1933、ロマン派から象徴派、世紀末デカダン派にいたるヨーロッパ藝術
「象徴派の絵画 」中山 公男、高階 秀爾【編】朝日新聞出版1992
「シャセリオー展」国立西洋美術館
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ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢・・・愛と美の深淵
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白井晟一・・・孤立の城、荒野の礼拝堂、ロマン主義建築家の反逆
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自然と人のダイアローグ、国立西洋美術館、彼方への旅
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孤高の思想家と藝術家の苦悩、孫崎享×大久保正雄『藝術対談、美と復讐』
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自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで・・・彼方への旅
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