メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年・・・美女の歴史、詐欺師女、残酷な美女、欲望に溺れる女
大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』271回
ルネサンス、マニエリスム、バロック、ロココ様式、新古典主義、絵画藝術における美女の歴史を辿ると、美女の意味を考えることができ、人間の理想の探求の歴史を見ることができる。ヴィーナスを藝術家は描いてきたが、美の意味は、変化してきた。ギリシア人の美と、ローマ人、ゲルマン人、スペイン人、ルネサンス人、オランダ人の美は異なる。『パリスの審判』に秘められた思想は、軽薄な現代人には理解できない。バロックの画家は美の理想を探求したのではない。リアリズムを探求したのである。象徴派の藝術家、反リアリズムの藝術家は、ギリシア人の理想を反芻した。現代人は美の意味を考えていない。1870年代のリアリズムを超える藝術は何か。
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ルネッサンス、マニエリスム、ロココ様式
【パリスの審判】神々の饗宴でアプロディーテを選択するトロイ王子パリス。スパルタ王妃美女ヘレネを奪ってトロイに連れ帰りトロイ戦争勃発【ガイアの嘆願】【神々の結婚】【神々の饗宴、争いの女神エリスが黄金の林檎を投げ入れる】【女神の争い】【美女姉妹ヘレネとクリュタイムネストラ、ゼウスがレダと交わって2組の双子】『叙事詩の円環』8部作は失われ、断片のみが残る。
【神々の饗宴、ペレウスとテティスの結婚】海神の一族であるテティスは自由に姿を変えることができたが、ペレウスは逃れようとした彼女をつかまえて離さなかった。2人の結婚式にはほとんどの神々が出席したが、争いの女神エリスだけが招かれなかった。これを恨んだエリスは、黄金のリンゴを祝宴の満座の中に投じ、これが原因となってのちにトロイ戦争が起こる。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【ルネッサンス、ヴィーナスの系譜、ティツィアーノ、クラナハ】
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【ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「ヴィーナスとアドニス」1550】ティツィアーノは、「ヴィーナスとアドニス」を30点以上、世界中に残る。注文が多い人気作品、最初の注文はフェリペ2世である。狩りに行くアドニスを追うヴィーナス、出典は、オヴィディウス『変身物語』10巻。
1550年、ティツィアーノ、アウグスブルグでフェリペ2世に会う。ティツィアーノ、アウグスブルグで、クラーナハに会う。ルーカス・クラーナハ(父1472~1553年)作『ティツィアーノの肖像』。1576ティツィアーノ、ペストに感染、88歳で死ぬ。
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【ルーカス・クラナハ「パリスの審判」1528】
「勝利と成功か、権力と富か、愛欲か」、どれを選ぶか。3つのうち一つ。
アテナは「戦場での勝利と名声」を、ヘラは「権力と富」を、ヴィーナスは「人間の中で最も美しい女」をそれぞれパリスに約束する。パリスが今一番欲しいのは「美しい女」。ヴィーナスに黄金の林檎を渡す。パリスは、美しい女、ヘレネを選び、トロイは滅亡する。神の罠に掛かって、トロイ滅亡。
「勝利と成功か、権力と富か、愛欲か」あなたなら、どれを選ぶか。3つのうち一つ。これには、正解がある。アテナは、知恵と勝利の女神。
3
マニエリスム
エル・グレコ「羊飼いの礼拝」1612-1614、プラド美術館所蔵
生まれたばかりの赤ん坊(キリスト)が描かれ、その身体から放たれた光が周囲を照らしている。キリストの周りには赤ん坊の奇跡の誕生を祝い敬意を表するために集まった羊飼いたちが描かれている。上空には同じくキリストの誕生を祝う天使たちが舞っている。
ニコラ・プッサン「足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ」1655
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ロココ様式【支配階級の自己満足】王と貴族の自己満足、老人の自己満足、支配階級の税金の浪費。税金泥棒、真実隠蔽する知識人、統計偽装を隠蔽する報道発表
【フランソワ・ブーシェ「ヴィーナスの化粧」1751】ロココ様式、ルイ14世の時代、何故、空虚な様式なのか。
【フランソワ・ブーシェ「ヴィーナスの化粧」1751】ロココ様式、ルイ14世の時代、空虚な様式なのは、何故か。『ポンパドゥール夫人』(1756年)。ルイ16世(在位:1774年~1792年)が即位すると、装飾性を抑えたルイ16世様式が広まり、ロココ様式の流行は終わる。
ロココ期最後のフランスの画家ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honoré Fragonard1732年~1806年)、ブーシェの影響を受け、典型的なロココ様式の絵画を描いた。代表作『ぶらんこ』 (1767年)。フラゴナール『閂』(Le Verrou)1778ルーヴル美術館部屋の中で若い男が嫌がっている若い女を抱き寄せ、扉の閂(扉を開閉する棒状の道具)をかける
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バロック、闇の美術、詐欺師女、残酷な美女、欲望に溺れる女
【闇の絵画、バロック画家の死】1610年、カラヴァッジョ38歳。1660年、ベラスケス61歳。1640年、ルーベンス62歳。1669年、レンブラント63歳。1652年、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール58歳。1675年、フェルメール43歳。
【バロック、いかさま師、リアリズムの探求】
カラヴァッジョ「いかさま師」1595ルーヴル美術館
ジョルジュ・ド・ラトゥール「ダイヤのエースを持ついかさま師」1625年ルーヴル美術館、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『女占い師』1630メトロポリタン美術館
【バロック、欲望に溺れる女、人殺し女、リアリズムの探求】
カラバッジョ『ホロフェルネスの首を切るユディト』1599、フェルメール『恋文』
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【カラヴァッジョ「音楽家たち」1595-6年】3人が楽器を演奏したり歌ったりしている。4人目の天使はブドウの房に手を伸ばしている。中心となるリュート奏者は、カラヴァッジョの友人であるマリオミンニティ、そして隣の読書をしている人に対面している人が作者カラヴァッジョらしい。少年たちが愛を祝うマドリガル(牧歌的叙情短詩)を練習している、主演奏者のリュート奏者の目は泪に濡れていた。その歌は愛の喜びよりむしろ悲しみを表している。前景にあるヴァイオリンはこの絵画の隠れた5人目の人物を連想させる。
カラヴァッジョは1595年、枢機卿一家フランシスコ・マリア・デルモンテの要員に加わった。「音楽家たち」は枢機卿への画家の初めての作品だと推定される。
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【ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『女占い師』1630メトロポリタン美術館、ジョルジュ・ド・ラトゥール「ダイヤのエースを持ついかさま師」1625ルート】現代のいかさま師はだれか。医者、弁護士、政治家、僧侶、陽明学者、政治学者、税理士、コンサルタント、営業職、ハウスメーカー、不動産業者。
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【フェルメール『信仰の寓意』1672】女は、天井から青いリボンで吊り下げられたガラス玉をうっとり見つめる。壁面の画中画は、磔刑図。足元に地球を踏みつけ、床にリンゴ、血を吐くヘビがいる。これは、罪の寓意。この絵画は、何を寓意しているのか。
『絵画の寓意』(『絵画芸術』)とともに、フェルメールが描いた現存する二点の寓意画のうちの一つ。
『イコノロジア』からの寓意
フェルメールが絵画に表現した寓意は、イタリア人美術学者チェーザレ・リーパが著した寓意画集で、1644年にD.P.ペルスがオランダ語に翻訳した『イコノロジア (Iconologia overo Descrittione Dell’imagini Universali cavate dall’Antichità et da altri luoghi)』に多くを負っている。フェルメールはこの『イコノロジア』からさまざまな記述と図像を採用している。例えば女性の衣服の配色、手の仕草、リンゴ、押し潰されたヘビである。リーパはその著書で、美徳の中でも信仰がもっとも重要であると考える。
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新古典主義
【ジャン・レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》1890】
ジャン=レオン・ジェローム(Jean-Léon Gérôme, 1824年5月11日 - 1904年1月10日)【ピュグマリオーンとガラテア】キプロス王ピュグマリオーンは、現実の女性に失望していた。あるとき自ら理想の女性ガラテアを彫刻した。その像を見ているうちにガラテアが服を着ていないことを恥ずかしいと思い始め、服を彫り入れる。そのうち彼は自らの彫刻に恋をするようになる。さらに彼は食事を用意したり話しかけたりするようになり、それが人間になることを願った。その彫像から離れないようになり、次第に衰弱していく姿を見かねたアプロディーテがその願いを容れて彫像に生命を与え、ピュグマリオーンはそれを妻に迎えた。
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マリー・ドニーズ・ヴィレール 《マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)》 1801年
女流画家による貴婦人の肖像。かつて、新古典主義のジャック・ルイ・ダヴィッドの作品と考えられてきた。
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★展示作品の一部
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「ヴィーナスとアドニス」1550
ルーカス・クラナハ「パリスの審判」1528
カラヴァッジョ「音楽家たち」1597年
こちらは、画面内に高密度で描かれた4人の美少年が印象的な作品。1597年、26歳のカラヴァッジョが、最初のパトロンとなったデル・モンテ枢機卿のために描いた
ニコラ・プッサン「足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ」1655
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『女占い師』1630メトロポリタン美術館
ジョルジュ・ド・ラトゥール「ダイヤのエースを持ついかさま師」1625
ヨハネス・フェルメール「信仰の寓意」1672
ベラスケス工房「オリバーレス伯公爵ガスパール・デ・グスマン」(1587-1645年)
フランソワ・ブーシェ「ヴィーナスの化粧」1751
マリー・ドニーズ・ヴィレール 《マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)》 1801年. 油彩/カンヴァス 161.3×128.6cm 1801
ジャン・レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》1890
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参考文献
「ティツィアーノとヴェネツィア派展」
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クラーナハ展、500年後の誘惑・・・透明なヴェールの女、女の策略
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カラバッジョ展・・・光と闇の藝術
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エル・グレコ展・・・天上界と地上界の融合、 「昨夜私は永遠を見た」
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ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち・・・黄金の残照に輝く迷宮都市
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フェルメールと17世紀オランダ絵画・・・ドレスデンの思い出
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メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年・・・美女の歴史、欲望に溺れる女、詐欺師
https://bit.ly/3p6BrUA
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参考文献
運命の美人姉妹、クリュタイムネストラ、ヘレネー
トロイア戦争の始まり 失われた『叙事詩の円環』
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大久保正雄『地中海紀行』第61回トロイア戦争 パリスの審判P29
岡道男『ホメロスにおける伝統の継承と創造』
安村 典子『ゼウスの覇権 反逆のギリシア神話』京都大学学術出版会
城江良知「ガイアの嘆願と『イリアス』」
『キュプリア』によれば,ガイアは、増えすぎた人間の重みに耐えかね,. しかも人間には神 を畏敬する心がまったくなかったため, ゼウスにこの重荷.を軽減してくれるようにと願い出た. ゼウスは同情してまずテーバイ戦争を起こし多数の人間を滅ぼした。
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メトロポリタン美術館の歴史
メトロポリタン美術館は、1866年7月4日、パリでアメリカ独立宣言の90周年を祝うために集ったアメリカの人々によって構想が提案され、その4年後の1870年4月13日に創立されました。アメリカ国民のために美術の教育と振興を図ることを使命とし、実業家や資産家、芸術家といった市民が創立者として尽力しました。創立当初、作品は1点もありませんでしたが、個人コレクターからの寄贈など、関係者の努力によってコレクションを形成し、1872年2月20日、ニューヨークのマンハッタンの小さな建物の中で一般公開を開始します。そして1880年、現在の場所である、セントラル・パーク内の建物に移りました。以来拡張を続け、現在では、先史時代から現代まで5000年以上にわたる世界各地の考古遺物・美術品150万点余りを有しています。
ヨーロッパ絵画部門
ヨーロッパ絵画部門のコレクションは、メトロポリタン美術館の創立から1年後の1871年、ヨーロッパの画商から購入した174点の絵画から始まりました。以来、寄贈・遺贈と購入により拡充が続けられ、現在は、13世紀から20世紀初頭まで、2500点以上に及ぶヨーロッパ各国の絵画を所蔵しています。同部門の常設展ギャラリーは美術館の2階に位置しますが、2018年より照明設備を改修する「スカイライ ト・プロジェクト」が進められています。電灯が普及する以前の19世紀末まで、絵画は自然光のもとで描かれ、鑑賞されていました。スカイライト・プロジェクトは、天窓からの自然光をギャラリーの照明に活用することで、より快適で自然な鑑賞環境を整える試みです。本展は、この改修工事をきっかけとして実現しました。国立新美術館
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「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」国立新美術館、2022年2月9日(水)~5月30日(月)
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