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2019年6月

2019年6月27日 (木)

速水御舟『炎舞』『粧蛾舞戯』『名樹散椿』、山種美術館・・・舞う生命と炎と闇

Hayami2019
Hayami1926
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』185回
初夏の夕暮れ、美術館に行く。藝術家は、苦難を超え、運命と戦い、真実在を追求する。速水御舟は、生涯、新しい絵画を探求し努力しつづけた。松本楓湖の弟子の時代、細密画の時代、琳派の時代、人物画の時代。速水御舟が追求した梯子の頂上とは何か。細密画の極致、琳派の画法か。速水御舟が追求した、真実在とは何か。
「梯子の頂上に登る勇気は貴い、更にそこから降りて来て、再び登り返す勇気を持つ者は更に貴い」『速水御舟語録』1935。「実在するものは、美でも醜でもない。唯真実のみだ。」速水御舟『私の行く道』1932
「人間の真の姿がたち現れるのは、運命に敢然と立ち向かう時である」シェイクスピア
美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
美しい夕暮れ。美しい魂に、幸運の女神が舞い降りる。美しい守護精霊があなたを救う。美しい魂は、輝く天の仕事をなし遂げる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保 正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【速水御舟40歳で死す】速水御舟は、31歳で『炎舞』(1925)、35歳で『名樹散椿』(1929)。40歳で死ぬ。妻は92歳まで生き、長女、速水弥生(大正11生まれ)は長寿である。
速水御舟(1894-1935)は、『炎舞』の炎に舞う蛾のように40年の短い生涯を終えた。短い人生のうちに、不滅の傑作、『炎舞』(1925)31歳、『粧蛾舞戯』(1926)、『翠苔緑芝』(1928)、35歳で『名樹散椿』(1929)、『京の舞妓』(1920)、『樹木』(1925)を残した。
大正8年25歳の時、浅草駒形で市電に足を轢かれ左足切断する。不運にめげず画業に精進する。不朽の傑作『炎舞』を残し、40歳で死す。死因は腸チフス。
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松本楓湖、今村紫紅と出会う
速水御舟は、松本楓湖の画塾、安雅堂に、14歳の時、入塾する。17歳で『瘤取之巻』を描く。画塾の先輩、今村紫紅と出会う。23歳で日本美術院同人に推挙される。
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速水御舟の頂点1920-1929
細密画1920-1923 26歳から29歳
『京の舞妓』(1920)『菊花図』(四曲二双屏風1921)は、緻密な細密画の極致である。岸田劉生の影響を受けて、リアリズムの絵画を描き始めた。細密画の系列には『輪島の皿に柘榴』、『寒鳩寒雀』があり、異様に緻密な世界に圧倒される。リアリズムの極致である。『京の舞妓』(1920)の醜悪をも描く、写実の背後に細密画の世界がある。『桃花』(1923)には、宋代、院体花鳥画の影響がある。
琳派の画法1925-1929 31歳から35歳
俵屋宗達の画法を研究して、琳派の画面構成を意識し、装飾的、構成的様式を打ち立てる。
不滅の傑作、『炎舞』(1925)、『粧蛾舞戯』(1926)、『葉蔭魔手』(1926)『翠苔緑芝』(1928)、『名樹散椿』(1929)を制作する。
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渡欧、1930年、36歳
御舟は、1930年、ローマ「日本美術展覧会」に美術使節として、横山大観とともに渡欧した。客船で洋行し、大観と同じ食卓を囲んだ時のメニューに御舟が書いた手紙が残っている。10か月間、イタリア、ギリシア、フランス、スペイン、イギリス、ドイツ、エジプト、各地を旅した。
渡欧の目的の一つは、エル・グレコを見るためで、トレドに行った。「
『アクロポリスのコレー』(1930)『アルノ河畔の月夜』(1931)に旅の思い出が留められている。この時、ジョット、エル・グレコに感動し、人物画の造形に影響を受けたといわれる。
素描、『女二題』の女性をえがく線に表れている。
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晩年、無色透明、40歳
晩年の作品は、花の絵が多い。死の匂いが漂う。『春の宵』『桔梗』『牡丹花』1934
「技法の究極は無色透明だと思う。画道の学徒は種々の技法を習得し、而して次第に脱落させ――無色透明にかえったとき、技法の真諦に逢着する」『塔影』9巻8号、1933
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美しい線
今日、美しい線、緻密なデッサンを描ける画家は少ないといわれるが、御舟の「牡丹写生図巻」「昆虫写生図巻」(1925)には、まれにみる美しい線、細密画のデッサンの存在を見ることができる。美しい花の花弁、妖しい蛾の美しさが、一すじの線によって描かれている。
絶筆『円かなる月』には、死の匂いが漂っている。
1910年(明治43年)作「小春」から、1935年(昭和10年)最後の作品となった「盆梅図(未完)」、平塚市美術館にて約120点、展示された。
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主な展示作品
《瘤取之巻》、 《錦木》、 《山科秋》、 《桃花》、 《柿》、 《春昼》、 《百舌巣》、 《炎舞》【重要文化財】、 《昆虫二題》、 《供身像》、 《翠苔緑芝》、 《名樹散椿》【重要文化財】(6/8-7/7展示)、 《紅梅・白梅》、 《オリンピアス神殿遺址》、 《埃及(エジプト)土人ノ灌漑》、 《青丘婦女抄 蝎蜅(カルボ)》、 《豆花》、 《写生帖》、 《春池温》、 《椿ノ花》、 《あけぼの・春の宵》、 《桔梗》、 《牡丹花(墨牡丹)》、 《秋茄子》 
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参考文献
『速水御舟 作品集』2019
【開館50周年記念特別展】『速水御舟の全貌―日本画の破壊と創造』2016
速水御舟 ―日本美術院の精鋭たち・・・燃え上がる生命の炎舞
https://bit.ly/2yEOkKf
速水御舟展、平塚市美術館・・・細密画の極致、炎に舞う儚い生命のように
https://bit.ly/2IbuZVt
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生誕125年記念、速水御舟、山種美術館、6月 8日(土) ~ 8月 4日(日

2019年6月 9日 (日)

「密教彫刻の世界」東京国立博物館・・・愛染明王、金剛薩埵の化身

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大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』184回
風薫る五月、花の匂い漂う森を歩いて、博物館に行く。伝真言院「両界曼荼羅」は、朱色と緑色の彩色が美しいと変化仏の神殿である。東寺の金剛薩埵は繊細な美しい手をしている。金剛波羅密、金剛宝、金剛法、金剛業、五菩薩の手は繊細で優美である。
狩野之信「花鳥図屏風」の前を通って、密教彫刻室に行く。愛染明王(rāgarāja. mahārāga)、大日如来(光徳寺)、西蔵のYab-yum像を見る。大日如来(光徳寺)には、成身会37尊が描かれている。
愛染明王(rāgarāja)は、三目六臂、憤怒相、智慧の弓と方便の矢を以って、衆生に愛と尊敬を与え、幸運を授ける。霊験は、無病息災、敬愛、降伏、鈎招、延命。
愛染明王は、両界曼荼羅に描かれていない。だが、金剛薩埵(vajrasattva)の化身である。
人間の生は、真の愛を探求する旅である。象徴派の藝術家は、人生をかけて愛する人を探している。愛と美の探求の果てに、何を見いだすのか。
「金剛界曼荼羅」「理趣会」は、金剛薩埵(vajrasattva)を中心とする集会、甘美で妖艶なエロスと智慧の香りである。
美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
美しい夕暮れ。美しい魂に、幸運の女神が舞い降りる。美しい守護精霊が救う。美しい魂は、輝く天の仕事をなし遂げる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保 正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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1、愛染明王
【愛染明王】『金剛峯楼閣一切瑜珈瑜祇経』が説く、獅子冠をかぶり3つの目と6本の腕をもつ愛染明王。真赤な身色も、経典に日が輝く如しと説くことを典拠とする。めらめらと燃えるように逆立つ焔髪、眉を吊り上げ睨みつける目、牙を出して開く口に憤怒相。金剛薩埵菩薩の化身。
【愛染明王】『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』「愛染王品第五」。愛染明王の修法は、息災・増益・敬愛・降伏の『四種法』の利益、その功徳は「能滅無量罪 能生無量福」「三世三界中 一切無能越 此名金剛王 頂中最勝名 金剛薩埵定 一切諸佛母」教主である金剛薩埵がこの尊を定めて、一切の諸仏の母とした)とも讃えられていて、これに基づいて金剛界で最高の明王と解釈される。
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2、愛染明王真言
【愛染明王真言】「オーム、偉大なる愛染明王よ。金剛仏頂尊よ。決して破壊されない最高の仏智を備えた金剛薩埵よ。金剛薩埵と同一の、金剛鉤菩薩、金剛索菩薩、金剛鎖菩薩、金剛鈴菩薩よ。我々を仏智に導いてください。」oM ma hA raga vajro SHI Sa va jra satva jaH+jaH hUM vaM hoH
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3、成身会、理趣会
【「金剛界曼荼羅」成身会】37尊。金剛界五仏、十六大菩薩、四波羅蜜菩薩、内外の四供養菩薩、四摂(ししょう)菩薩の以上37尊より構成され、これを四大神と賢劫千仏と二十天が囲む。金剛界五仏とは中央の大日如来、東方の阿閦如来、南方の宝生如来、西方の阿弥陀如来、北方の不空成就如来の五仏。四摂菩薩は、金剛鉤菩薩(Vajrankusa)、金剛索菩薩(Vajrapasa)、金剛鎖菩薩(Vajraśṛṅkhalā)、金剛鈴菩薩(Vajravesa)。
【八供養菩薩】金剛界曼荼羅の中央部の成身会で、大日如来が四仏に供養するため現出した嬉・鬘・歌・舞の四菩薩(内の四供)と、その外側に配されて四仏が大日如来を供養する香・華・灯・塗の四菩薩(外の四供)。
――
【「金剛界曼荼羅」⑦「理趣会」】全部で17人の菩薩。中央が、金剛薩埵。周りに、慾金剛菩薩、触金剛菩薩、慢金剛菩薩、愛金剛菩薩。その周りに、金剛香菩薩、金剛華菩薩、金剛燈菩薩、金剛塗菩薩。さらにその周りに、金剛嬉菩薩、金剛鬘菩薩、金剛歌菩薩、金剛舞菩薩。さらにさらにその周りに、金剛鉤菩薩、金剛索菩薩、金剛鎖菩薩、金剛鈴菩薩。 全部で17尊。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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展示作品の一部
重文  愛染明王坐像  1躯  鎌倉時代・13世紀
重文 大日如来坐像  1躯  鎌倉時代・12~13世紀 栃木・光得寺蔵
重文 大日如来坐像  1躯  平安時代・11~12世紀
チャクラサンヴァラ父母仏立像  1躯 中国・チベットまたはネパール 15~16世紀
重文  十一面観音菩薩立像  1躯 中国 奈良・多武峯伝来 唐時代・7世紀
――
4、無上瑜伽タントラ 慈悲と般若
Yab-yumは、男性尊格が蓮華座にて座し、伴侶がその腿に腰かける座位の構図。この交合の表現によって空性の智慧(女性原理、自利)と慈悲の方便(男性原理、利他)との一致を体現した仏陀の境地=大楽を表現。ヤブユムは無上瑜伽タントラと象徴主義が結びつき、男性像は「慈悲」(karuṇā) を与える男性原理である「方便」(upāya) 、その伴侶は女性原理である「般若」(prajñā) を象徴する。
――
参考文献
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」東京国立博物館・・・空海、理念と象徴
https://bit.ly/2Ov53Hz
東寺『金剛界曼荼羅』『胎蔵界曼荼羅』西院本・・・知恵と戦いの叙事詩、生命の根源
https://bit.ly/315UPn8
密教経典『理趣経』・・・空海と金剛界曼荼羅
https://bit.ly/2H2diKc
田中公明『曼荼羅イコノロジー』1987
石田尚豊『曼荼羅の研究』全2巻、東京美術、1975年
関根俊一『仏尊の事典、壮大なる仏教宇宙の仏たち』1997
――
愛染明王真言「オン・マカラギャ・バゾロシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク」
https://omajinai-navi.jp/aizen-myouou-mantra/ 
【不動明王、真言】【除霊や商売繁盛に効果抜群】「ノウマク サンマンダ バサラダン センダン マカロシャダ. ヤソハタヤ ウンタラタ カンマン」不動明王の真言は現世でご利益をもたらしてくれる。真言の意味は「憤怒の形相で強い力を持つ不動明王よ、私の迷いや厄を取り払い、願いを叶えてください」.。
―――
■密教彫刻の世界 、東京国立博物館
本館 14室 2019年3月19日(火) ~ 2019年6月23日(日)
https://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=5751
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1957
愛染明王、東京国立博物館
https://albireo190.blog.so-net.ne.jp/2013-09-03
ーー
画像
「愛染明王坐像」内山永久寺、奈良、鎌倉時代、13‐14世紀、東京国立博物館

「愛染明王像」康円作、鎌倉時代13世紀。京都神護寺から東京国立博物館に寄託。
画像出典「御朱印めぐりの旅日記」「風の詩SSブログ」
「大日如来坐像」運慶作、鎌倉時代12世紀、栃木、光得寺
「密教彫刻の世界」東京国立博物館・・・愛染明王、金剛薩埵の化身
https://bit.ly/2WNIoNt

2019年6月 3日 (月)

『金剛界曼荼羅』『胎蔵界曼荼羅』西院本・・・知恵と戦いの叙事詩、生命の根源

Taizokai-toji-2019
Kongokai2019
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』183回
風薫る五月、花の匂いただよう森、紫の躑躅咲き乱れる道を歩いて博物館に行く。1200年前からこの世に伝わる、両界曼荼羅の前に立つと、朱色と緑色の彩の美しい絨毯のようである。1909体の仏尊が眩く輝く宇宙。
密教の香りが立ち昇る。胎蔵界灌頂、金剛界灌頂、伝法阿闍梨位灌頂、秘密の儀式の意味は何か、美術史家は沈黙する。両界曼荼羅は、愛と戦いの叙事詩、知恵の樹を昇る、知恵の探求、知恵からの下降、金剛界から現世との戦い。胎蔵界は、生命の根源から花開く愛。図像に秘められた金剛界の戦い、知の階梯。向上門は、知恵への道、向下門は、真理からの降臨である。理念を探求する智者と現実との戦い。天人、人界、修羅と、畜生、餓鬼、地獄との戦い。
「人間の真の姿がたち現れるのは、運命に敢然と立ち向かう時である」シェイクスピア『トロイラスとクレシダ
美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
美しい夕暮れ。美しい魂に、幸運の女神が舞い降りる。美しい守護精霊が救う。美しい魂は、輝く天の仕事をなし遂げる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』 
大久保 正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
【空海の密教】即身成仏。理念を現実に実現する世界観。法身=大日如来、報身=阿弥陀仏、応化身=釈迦牟尼仏。5世紀までにはその本質永遠性と現実即応の関連づけ、すなわち統一が問題となり、それが仏身論に及び、法身と色身(応身)を合せた報身が立てられ、三身説(法身、応身、報身)が成立した。
【両界曼荼羅、「金剛界曼荼羅」】、成身会を中心に、三昧耶会、微細会、供養会、四印会、 一印会、理趣会、降三世会、降三世三昧耶会の九会からなる。知恵を表現する。
【両界曼荼羅、「胎蔵曼荼羅」】、中台八葉院を中心に、周囲に、遍知院、持明院、釈迦院、 虚空蔵院、文殊院、蘇悉地院、蓮華部院、地蔵院、金剛手院、除蓋障院が、同心円状にめぐり、すべてを囲む外周に外金剛部院(最外院)からなる。愛を表現する。
「真言秘蔵は経疏に隠密にして、図画を仮らざれば相伝すること能わず」(空海『請来目録』)
――
【金剛界曼荼羅の基本となる成身会】は、金剛界五仏、十六大菩薩、四波羅蜜菩薩、内外の四供養菩薩、四摂菩薩の以上37尊より構成され、これを四大神と賢劫千仏と二十天が囲む。(智拳印)一仏のみで表す他は、中心となる成身会、羯磨会の1061尊を含め合計約1500尊を配する。
【金剛界曼荼羅】智拳印の大日如来を中心に、阿閃、宝生、阿弥陀、不空成就の五智如来をはじめとする金剛界三十七尊を含む1500体。
【胎蔵界曼荼羅】法海定印の胎蔵界の大日如来、宝幢如来、開敷華王(かいふけおう)如来、無量寿如来、天鼓雷音、胎蔵界五仏を中心に409体が描かれる。
――
【五秘密】五秘密は真言宗に於ける金剛界所立の秘法にして、金剛薩埵(中)、慾金剛(東)、触金剛(南)、愛金剛(西)、慢金剛(北)の五金剛菩薩の称なり。此慾触愛慢の四字は煩悩の名なれども仏徳を表わすが故に悉く秘密の名字を付するよりこの五尊を以て五秘密とは名づくなり。
【『金剛界曼荼羅』理趣会、金剛薩埵】金剛薩埵は、若くて美しい女。欲・触・愛・ 槾 、美しい菩薩によって囲まれている。欲金剛女菩薩、触金剛女菩薩、愛金剛女菩薩、槾金剛女菩薩。
【理趣会、四金剛女菩薩】『理趣経』に基づき煩悩即菩提を実現する金剛薩埵を主尊とし、初段「十七清浄句」を代表する欲金剛、触金剛、愛金剛、慢金剛の四金剛菩薩を東南西北に配し、欲金剛女、触金剛女、愛金剛女、慢金剛女の四金剛女菩薩を東南・西南・西北・東北に配する集会。
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
空海と嵯峨天皇、空海と最澄、嵯峨天皇と平城上皇
【空海と最澄、第16次遣唐使】延暦23(804)年、第1船、遣唐大使・藤原葛野麿。空海は第1船に乗船。第2船、副使・石川道益(入唐後に没)乗船。最澄は第2船。最澄は、桓武天皇の勅命により遣唐僧、空海は私度僧。他の2船は遭難、沈没。
【乙訓寺、空海】弘仁2年(811)、嵯峨天皇により空海(弘法大師)が乙訓寺の別当に任ぜられた。翌年弘仁3年10月に最澄が立ち寄り、二人が初めて出会う。最澄46歳、空海36歳。
【空海、『理趣釈経』借覧拒否】最澄は、弘仁4年(813年)11月23日、『理趣経』の注釈書である不空の『理趣釈経』を借覧しようとしたが、空海は断る。空海『答叡山澄法師求理趣釈経書』(『遍照発揮性霊集』)
【空海、最澄と決裂】弘仁4(813)年、『理趣釈経』借覧拒否。最澄に答えた書簡。「古の人は道の為に道を求め、今の人は名利の為に求む。名の為に求むるは、道を求むる志にあらず。」「夫れ秘蔵の興廃は唯汝と我なり」空海『答叡山澄法師求理趣釈経書』
【嵯峨天皇、高野山勅許】弘仁7(816)年、七月八日 高野山開創の勅許を賜る。この年、『弁顕密二教論』(816)。弘仁14年(823)に嵯峨天皇より東寺を賜る。真言密教、真言陀羅尼宗の根本道場、教王護国寺とした。
【嵯峨天皇と平城上皇の戦い】810年(弘仁1)年9月10日に天皇は仲成を逮捕、佐渡権守に貶降、薬子を追放に処す。対して上皇は薬子とともに平城京から東国に向かい対抗、坂上田村麻呂らが迎撃態勢。平城京に戻り剃髪し、薬子は自殺。乱は3日間で終息。
――
空海『秘密曼荼羅十住心論』(830)は、蛭牙公子の水準を第1住心、亀毛先生(儒)の水準を第2住心、虚亡隠士(道)の水準を第3住心とし、仮名乞児(仏)の水準を第4住心から第10住心までの7つに細分化している。7つのうち、第4(声聞)と第5(縁覚)は小乗仏教、第6から第10まで(法相・三論・天台・華厳・真言)は大乗仏教、第10の真言だけが密教で、他の6つは顕教とされている。『三教指帰』(797)と『十住心論』(830)はつながっている。(上山春平)
空海『秘蔵宝鑰』目次
第一、異生羝羊心
   凡夫狂酔して 吾が非を悟らず。但し婬食(いんじき)を念ずること 彼の羝羊の如し。
 第二、愚童持斎心
   外の因縁に由って 忽ちに節食(せつじき)を思う。施心萌動(ほうどう)して 穀の縁に遇うが如し。
 第三、嬰童無畏心
   外道天に生じて 暫く蘇息を得。彼の嬰児と 犢子との母に随うが如し。
 第四、唯蘊無我心
   ただ法有を解(げ)して我人皆遮す。羊車の三蔵 ことごとくこの句に摂す。
 第五、抜業因種心
   身を十二に修して 無明、種を抜く。業生、已に除いて 無言に果を得。
 第六、他縁大乗心
   無縁に悲を起して 大悲初めて発る。幻影に心を観じて 唯識、境を遮す。
 第七、覚心不生心
   八不に戯(け)を絶ち 一念に空を観れば、心原空寂にして 無相安楽なり。
 第八、一道無為心
   一如本浄にして境智倶(とも)に融す。この心性を知るを号して遮那という。
 第九、極無自性心
   水は自性なし 風に遇うてすなわち波たつ。法界は極にあらず。警を蒙って忽ちに進む。
 第十、秘密荘厳心
   顕薬塵を払い、真言、庫を開く。秘宝忽ちに陳じて 万徳すなわち証す。
――
【空海】「現実に現身のままで大日如来になる。」(『即身成仏義』)空海は「法身仏、普遍的な存在が説法をする」と説く。釈迦牟尼の教えを超え、釈迦牟尼の悟りを成り立たせる真理そのものを仏(法身)として、教えの主体にした。『空海・生涯と思想』
――
【『大日経』】『大毘盧遮那成仏神変加持経』は、善無畏(Śubhakarasiṃha、637-735)と唐の学僧たちによって724年に漢訳された。しかし、サンスクリット原本はまだ発見されていない。【『金剛頂経』】不空三蔵(705-774)がサンスクリット原本から訳した『金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経(大教王経)』がある。
――
参考文献
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
密教経典『理趣経』・・・空海と金剛界曼荼羅
https://bit.ly/2H2diKc
空海『即身成仏義』、大日如来の知恵 五智如来の知恵
https://bit.ly/2O8YtbU
関根俊一『仏尊の事典、壮大なる仏教宇宙の仏たち』1997
石田尚豊『曼荼羅の研究』全2巻、東京美術、1975年
東寺伝の曼荼羅図No273
https://blog.goo.ne.jp/yoshi_iltuki/e/e5881de0e90574b03369fd8125da0d7c
一印会 毘盧遮那如来
――
展示作品の一部
国宝 両界曼荼羅図、金剛界、胎蔵界、(西院曼荼羅[伝真言院曼荼羅]) 平安時代・9世紀 京都・東寺蔵
展示期間:4月23日(火)~5月6日(月・休)
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1938
――
★「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」、東京国立博物館、
2019年3月26日(火)~6月2日(日)

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