東西美人画の名作《序の舞》への系譜・・・夢みる若い女、樹下美人
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第143回
春爛漫、百花繚乱、花吹雪。花盛りの森を歩いて美術館に行く。春高楼の花の宴、夜桜の森の下、酔う人々。いにしえの美人の面影が蘇る。春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女。
美には、魂の美、肉体の美、内面の美、外面の美、見えざる美、表面の美、内面と外面が一致した美がある。美人画の美女は、夢みる若い女、上流階級の毅然とした美女、艶麗な美女。美人画の最高峰は何か。
日本の美人画が描いていない領域がある。日本の美人画は、ラファエル前派、ルネサンスの美女、バロックの美女、新古典主義の美女とどこが異なるのか。
菱田春草「水鏡」(1897)は「美人はいつまでも美にあらず、ついには衰えるときがある」「天女衰相、天女の相が映る」(菱田春草『画界新彩』)。菱田春草は37歳で夭折する。
上村松園「序の舞」1936は「優美なうちにも毅然として犯しがたい気品」(『靑眉抄』)を表現している。
不気味な女たち。妖気を感じる。上村松園「焔」1918、岸田劉生「麗子」1920「野童女」1922、甲斐庄楠音「幻覚」1920、女は、人間の矛盾を映す鏡である。「江戸時代の幽霊は、女がほとんど。女は、抑圧される。抑圧されていた女は、死んで恨みを晴らす。恨みの視覚化が妖怪である。妖怪は、人が抱える矛盾を映す鏡である。」(小松和彦)
岸田劉生がデロリとよんだ甲斐庄楠音は83歳まで生き、岸田劉生は38歳で没した。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
大久保正雄『藝術家と運命との戦い、運命の女』
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美人画の始まり 樹下美人図
「鳥毛立女屏風図」正倉院宝物 天平勝宝四年(752年) 。「樹下美人図」ともよばれる。天平勝宝八年(756)の『東大寺献物帳』に「六扇」と記載されている。樹下に佇む唐の装束を着た婦人を描いた。シルクロード起源である。
【樹下美人図】春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女。春の園が紅色に美しく輝くように咲いている桃の花の色が、木の下までも照り映えている道に出て立っている乙女よ。(天平勝宝二(西暦750年)年三月一日の暮(ゆうへ)に、春苑の桃李の花を眺矚(なが)めて作る歌二首。大伴家持 (万葉集巻十九、4139)
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より」
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展示作品の一部
鈴木春信「琴を弾く美人」1767「三十六歌仙」1767
勝川春章「青楼美人合鏡」1776
鳥居清長「美南見十二侯」1784
喜多川歌麿「当世三美人」1793
菱田春草「水鏡」1897
鏑木清方「一葉」1940
菊池契月「友禅の少女」1933
甲斐庄楠音「幻覚」1920
上村松園「序の舞」1936
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参考文献
ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢・・・愛と美の深淵
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-ee4b.html
「ザ・ビューティフル ― 英国の唯美主義 1860‐1900」・・・大英帝国の黄昏
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/18601900-9567.html
「ヌード NUDE-英国テート・コレクションより」横浜美術館・・・愛と美の象徴、思想表現の自由の戦い
https://bit.ly/2pJnsnZ
「上村松園展、東京国立近代美術館」2010年9月7日-10月17日
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-1f70.html
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このほど、近代美人画の最高傑作である上村松園作《序の舞》(重要文化財)の修理が完成し、本展にてはじめて一般に公開される運びとなりました。上村松園(1875-1949)は、京都に生まれ鈴木松年や竹内栖鳳らに学びながら、独自の美人画様式を確立。官展を中心に活躍し、昭和23年(1948)、女性としてはじめての文化勲章を受章しました。昭和11年(1936)作の《序の舞》は、松園のもっとも充実した時期に制作された代表作のひとつです。
本展では、この機に、江戸時代の風俗画や浮世絵に近代美人画の源流を探りながら、《序の舞》に至る美人画の系譜をたどります。明治中期から昭和戦前期までの、東京と関西における美人画の展開を、松園をはじめ菱田春草、鏑木清方、菊池契月、北野恒富ら著名作家たちの名作を中心に俯瞰いたします。
https://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2017/bijinga/bijinga_ja.htm
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★東西美人画の名作 《序の舞》への系譜、東京藝術大学大学美術館
2018年3月31日〜5月6日
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