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2017年3月

2017年3月30日 (木)

雪村、奇想の誕生・・・戦国時代の孤高の画僧の謎

Sesson_ryodouhinzu大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
桜の蕾がふくらむ森を歩いて、東京藝術大学美術館に行く。この日は藝大の卒業式で、華やかな振袖、袴の女子学生たちが颯爽と歩いてくる。
戦国時代、親と子は敵であり、兄弟は最大の敵である。武将、藝術家、思想家は、家族のなかに最大の敵が存在する。ルネサンス時代、レオナルド、ミケランジェロは、家と時代の逆境を生きぬいて藝術を探求した。
戦国時代を生きた孤高の画僧、雪村周継、異端の水墨画の巨匠。波と風と岩。龍の上に立つ仙人。大胆な構成、独創的な形態、大胆にして繊細、細部に宿る命。孤高の画家の発想の源泉には、何があるのか。寒い春にみる孤高の絵画。
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。を思い出す。
*「春」安西 冬衛、詩集『軍艦茉莉』(昭和4年刊)
韃靼海峡は間宮海峡(タタール海峡)の古称。蝶が大陸へ向かって海を越えていく。海を越える一匹の蝶。三岸好太郎「雲の上を飛ぶ蝶」を想起する。

美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
美しい魂は、輝く天の仕事をなす。美しい女神が舞い下りる。美しい守護精霊が、あなたを救う。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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展示室で、美術史家の講義をききながら、雪村の作品をみる。『呂洞賓図』、仙人が龍の上に立ち、天を見る。舌を出す。どうしてこのような構図になったのか、理由がわからない。と美術史家、古田亮氏は説明する。図案は、『羅漢図』に原案がある。『金山寺図屏風』、細密を極める屏風。奇想の画家の系譜の始まりが雪村である。と古田亮氏は説明する。
伊藤若冲、曽我蕭白、歌川国芳、奇想の画家たちの発想の源泉には、何があるのか。
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雪村 生涯の謎 逆境を生きる苦悩
雪村(1500頃~1580年頃)は、戦国武将の子であるが、逆境を生き、孤高の絵画の境地を追求した。常陸国で戦国武将の一族、佐竹氏に長男として生まれた。長男として家を継ぐはずだが、雪村の父は他の妻の子を跡取りとした(『本朝画史』)。このため、幼くして夢窓疎石を開山とする正宗寺に入って修行する。幼いうちに出家し画業の道へと進む。水墨画の巨匠、雪舟に私淑し独自の水墨画を多く残した。今では西の雪舟、東の雪村と言われる。
雪村の生涯には謎が多い。生没年すら明確にわかっていないが、少なくとも86歳までは絵を描いていたという記録が残る。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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展示作品
『呂洞賓図』(りょどうひんず)、大和文華館蔵、重要文化財
『蝦蟇鉄拐図』東京国立博物館蔵
『琴高仙人・群仙図』京都国立博物館蔵、重要文化財
『猿猴図』個人蔵
『金山寺図屏風』笠間稲荷美術館蔵
『列子御風図』公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵
『風濤図』野村美術館蔵、重要文化財
『龍虎図屏風』根津美術館蔵
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★参考文献
辻 惟雄『奇想の系譜 又兵衛−国芳』筑摩書房
岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳を奇想の画家と再評価する。
辻 惟雄『奇想の図譜からくり・若冲・かざり』筑摩書房
北斎、若冲、写楽、白隠、そして日本美術を貫く奔放な「あそび」の精神と「かざり」への情熱。奇想から花開く鮮烈で不思議な美の世界。
『雪村-奇想の誕生-』図録、東京藝術大学美術館2017
葛飾応為『吉原格子先之図』
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★奇想の系譜
若冲展、東京都美術館・・・『動植綵絵』、妖気漂う美の世界
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-2b1d.html
「若冲と蕪村」・・・黄昏の美術館
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-7705.html
蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち・・・狂狷の画家、蕭白
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-8a7c.html
奇才 曽我蕭白
ボストン美術館 日本美術の至宝、東京国立博物館・・・美の宴
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-522b.html
伊藤若冲 アナザーワールド・・・若冲の水墨画
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-7fcb.html
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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特別展 「雪村-奇想の誕生-」東京藝術大学美術館
2017年3月28日(火)- 5月21日(日)
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/sesson/sesson_ja.htm
2017年3月30日

2017年3月 1日 (水)

シャセリオー展、国立西洋美術館・・・アポロンとダフネ、泉のほとりで眠るニンフ

20170228Thodore_chassriau_1850Chasseriau_venus_1839_2大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
春よみがえる森、枝垂れ梅が満開の森を歩いて、美術館に行く。
シェイクスピア劇の愛と嫉妬、憎悪、猜疑心、人間の暗い情念、苦悩、亡霊、魔女、幻影に、ロマン主義の藝術家たちは題材を得る。
シャセリオーは、詩人たちを愛し、シェイクスピア、バイロンを愛読した。ギリシア神話に霊感をうけた。ラファエロを崇めるアングルとは、方向が異なる。*
『海から上がるウエヌス』(Louvre)をみた日を思い出す。
シャセリオーは、美人画に卓越した画家である。シャセリオーの絵画は、調和ある古典的世界と女性美を探求した。シャセリオーは37歳で死する夭折の画家である。
『泉のほとりで眠るニンフ』1850、『カバリュス嬢』1848、『16世紀スペイン女性の肖像』1834—50、『海から上がるウエヌス』1838,1842。
『アポロンとダフネ』1845 アポロンはダフネに恋するが、ダフネは樹木に変身して拒絶する。*オヴィディウス『変身物語』
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
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永遠を旅する哲学者は、美のイデアへ旅する。
美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。はちみつ色の夕暮れ、黄昏の丘、黄昏の森を歩き、迷宮図書館に行く。糸杉の丘、知の神殿が目覚める。
美しい魂は、輝く天の仕事をなす。美しい女神が舞い下りる。美しい守護精霊が、あなたを救う。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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■テオドール・シャセリオー(Théodore Chassériau, 1819年9月20日 - 1856年10月8日)
テオドール・シャセリオー(Théodore Chassériau 1819-1856)。11歳でアングルに入門する。ドラクロワの影響を受け、ロマン主義の画家となり、新古典主義と融合する。『アポロンとダフネ』1845を描く。象徴主義に影響を与える。
■ギュスターブ・モロー(Gustave Moreau, 1826–1898)
シャセリオー『アポロンとダフネ』1845。この絵がギュスターブ・モローに影響を与える。37歳で早世する。ギュスターブ・モローは、美術学校を辞め、シャセリオーの近くにアトリエを構える。
ギュスターブ・モロー『アポロンとダフネ』『オルフェウスの首を運ぶトラキアの娘』1865、『若者と死』1882。これらの絵画において、ギュスターブ・モローは、シャセリオーの影響が濃厚である。ギュスターブ・モロー藝術は、「詩人のテーマ」を根源としている。
★主要作品
テオドール・シャセリオー『アポロンとダフネ』1845ルーヴル美術館
テオドール・シャセリオー、『カバリュス嬢の肖像』1848年カンペール美術館
CHASSERIAU, Theodore 1819-1856. French Painter Romanticism. □Painting Data□. Apollo and Daphne. (Apollon et Daphne). 1846
Théodore Chassériau, Apollo and Daphne. (Apollon et Daphne). 1846
Théodore Chassériau,Venus Anadiomene,1842
Théodore Chassériau,Nymphe,1850
Théodore Chassériau,Portrait de Mademoiselle de Cabarrus
Théodore Chassériau,Cabarrus,1848
Théodore Chassériau , Venus Anadyomene, or Venus of the Sea ,1838
■フランスの新古典主義 ジャック=ルイ・ダヴィッド(David)、弟子たち
ダヴィッドの弟子たち、アングル(Ingres)、フランソワ・ジェラール(F.Gerard)、グロ(Grot)、ジロデ=トリオソン(Girodet de Roussy-Trioson)
荘重な様式をもとめて古典古代、ギリシァの芸術を模範とした。ナポレオン時代、英雄主義的な主題は好まれ、インペリアル様式となる。ロココ美術のあまりに甘美な装飾様式、退廃的貴族主義に対する反発から生まれた。
■イギリス文学のロマン主義文学
ウィリアム・ブレイクの詩を萌芽とし、ウィリアム・ワーズワースとサミュエル・テイラー・コールリッジ『抒情民謡集(Lyrical Ballads)』(1798年)によって始まるが保守化した。ナポレオン戦争後、ジョージ・ゴードン・バイロン、パーシー・ビッシュ・シェリー、ジョン・キーツらは先鋭化しイギリスを去ってスイス・イタリアに移り、理想主義を追求した。
■ロマン主義の画家 ロマン主義に属する画家は、スペインのゴヤ、フランスのドラクロワ、テオドール・ジェリコー、ギュスターヴ・ドレ、イギリスのウィリアム・ブレイク、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー、サミュエル・パーマー、リチャード・ダッド、イタリアのフランチェスコ・アイエツ、スイスのヨハン・ハインリヒ・フュースリー、ドイツでは山岳・廃墟をテーマにしたカスパー・ダーヴィト・フリードリヒ、フィリップ・オットー・ルンゲ、ノルウェーのヨハン・クリスチャン・ダール。日本の絵画では藤島武二、青木繁。
★参考文献
陳岡めぐみ「異国の香り テオドール・シャセリオー」『シャセリオー展図録』
澁澤龍彦「小ロマン派群像」中央公論社『悪魔のいる文学史』〔中公文庫〕
デーヴィッド・ブレイニー・ブラウン『岩波世界の美術 ロマン主義』高橋明也訳、岩波書店2004年
高階秀爾『フランス絵画史』講談社1990年
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★シャセリオー展―19世紀フランス・ロマン主義の異才、国立西洋美術館
2017年2月28日(火)〜5月28日(日)

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