雪村、奇想の誕生・・・戦国時代の孤高の画僧の謎
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
桜の蕾がふくらむ森を歩いて、東京藝術大学美術館に行く。この日は藝大の卒業式で、華やかな振袖、袴の女子学生たちが颯爽と歩いてくる。
戦国時代、親と子は敵であり、兄弟は最大の敵である。武将、藝術家、思想家は、家族のなかに最大の敵が存在する。ルネサンス時代、レオナルド、ミケランジェロは、家と時代の逆境を生きぬいて藝術を探求した。
戦国時代を生きた孤高の画僧、雪村周継、異端の水墨画の巨匠。波と風と岩。龍の上に立つ仙人。大胆な構成、独創的な形態、大胆にして繊細、細部に宿る命。孤高の画家の発想の源泉には、何があるのか。寒い春にみる孤高の絵画。
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。を思い出す。
*「春」安西 冬衛、詩集『軍艦茉莉』(昭和4年刊)
韃靼海峡は間宮海峡(タタール海峡)の古称。蝶が大陸へ向かって海を越えていく。海を越える一匹の蝶。三岸好太郎「雲の上を飛ぶ蝶」を想起する。
美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
美しい魂は、輝く天の仕事をなす。美しい女神が舞い下りる。美しい守護精霊が、あなたを救う。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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展示室で、美術史家の講義をききながら、雪村の作品をみる。『呂洞賓図』、仙人が龍の上に立ち、天を見る。舌を出す。どうしてこのような構図になったのか、理由がわからない。と美術史家、古田亮氏は説明する。図案は、『羅漢図』に原案がある。『金山寺図屏風』、細密を極める屏風。奇想の画家の系譜の始まりが雪村である。と古田亮氏は説明する。
伊藤若冲、曽我蕭白、歌川国芳、奇想の画家たちの発想の源泉には、何があるのか。
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雪村 生涯の謎 逆境を生きる苦悩
雪村(1500頃~1580年頃)は、戦国武将の子であるが、逆境を生き、孤高の絵画の境地を追求した。常陸国で戦国武将の一族、佐竹氏に長男として生まれた。長男として家を継ぐはずだが、雪村の父は他の妻の子を跡取りとした(『本朝画史』)。このため、幼くして夢窓疎石を開山とする正宗寺に入って修行する。幼いうちに出家し画業の道へと進む。水墨画の巨匠、雪舟に私淑し独自の水墨画を多く残した。今では西の雪舟、東の雪村と言われる。
雪村の生涯には謎が多い。生没年すら明確にわかっていないが、少なくとも86歳までは絵を描いていたという記録が残る。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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展示作品
『呂洞賓図』(りょどうひんず)、大和文華館蔵、重要文化財
『蝦蟇鉄拐図』東京国立博物館蔵
『琴高仙人・群仙図』京都国立博物館蔵、重要文化財
『猿猴図』個人蔵
『金山寺図屏風』笠間稲荷美術館蔵
『列子御風図』公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵
『風濤図』野村美術館蔵、重要文化財
『龍虎図屏風』根津美術館蔵
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★参考文献
辻 惟雄『奇想の系譜 又兵衛−国芳』筑摩書房
岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳を奇想の画家と再評価する。
辻 惟雄『奇想の図譜からくり・若冲・かざり』筑摩書房
北斎、若冲、写楽、白隠、そして日本美術を貫く奔放な「あそび」の精神と「かざり」への情熱。奇想から花開く鮮烈で不思議な美の世界。
『雪村-奇想の誕生-』図録、東京藝術大学美術館2017
葛飾応為『吉原格子先之図』
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★奇想の系譜
若冲展、東京都美術館・・・『動植綵絵』、妖気漂う美の世界
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2016/05/post-2b1d.html
「若冲と蕪村」・・・黄昏の美術館
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-7705.html
蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち・・・狂狷の画家、蕭白
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-8a7c.html
奇才 曽我蕭白
ボストン美術館 日本美術の至宝、東京国立博物館・・・美の宴
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-522b.html
伊藤若冲 アナザーワールド・・・若冲の水墨画
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-7fcb.html
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
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特別展 「雪村-奇想の誕生-」東京藝術大学美術館
2017年3月28日(火)- 5月21日(日)
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/sesson/sesson_ja.htm
2017年3月30日
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