クラーナハ展、500年後の誘惑・・・透明なヴェールの女、女の策略
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
秋の森を歩いて美術館に行く。青春の日に旅した東欧、ウィーン美術史美術館、ハプスブルク帝国の旅を思い出す。「ヨハネの首をもつサロメ」、血塗られた首と艶麗な女。陰鬱なドイツの暗闇と肉体にまつわる透き通ったヴェール。
はちみつ色の夕暮れ、黄昏の丘、黄昏の森を歩き、迷宮図書館に行く。糸杉の丘、知の神殿が眠る。
美しい魂は、輝く天の仕事をなす。美しい女神が舞い下りる。美しい守護精霊が、あなたを救う。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
クラーナハは、陰鬱なドイツの暗闇に、女性ヌード絵画で光をもたらした。透き通ったヴェールは、裸身の肌をあらわす。透き通って肌を隠さないクラーナハのヴェール。見えない極薄のヴェールをまとっている。柔らかな曲線をなす華奢な裸体の線。
ルカス・クラーナハ(1472-1553年)は「女の策略」「女の誘惑」の主題を追求した。「女の策略」「女の誘惑」の主題の絵は、強烈な妖艶、蠱惑的な魅力がある。女たちは、人を欺き陥れる策略がある。男を酒で眠らせ、眠っている間に力を奪う。女の目的は、妊娠出産である。
イヴの誘いに負けて禁断の果実を食べるアダム。敵将ホロフェルネスの寝室に赴き、酒で眠らせ惨殺したユディト。踊りによってヘロデ王を悦ばせ、報酬に聖ヨハネの斬首を手に入れた王女サロメ。王女オンファレの美貌に誘惑され羊毛を紡ぐ羽目になる英雄ヘラクレス。娘たちに酔わされ近親相姦を犯し子を産ませたロト。
1517年、ザクセン公国ヴュルテンブルクのルターの宗教改革から500年の時が流れた。失われたドイツの時間が、宮廷画家の工房から蘇る。
主要展示作品
ルカス・クラーナハ(父)「ホロフェルネスの首をもつユディト」1530
「ヨハネの首をもつサロメ」1530、「ロトと娘たち」1528—30、「サムソンとデリラ」1528—30、「不釣合いなカップル」1530-1540年「ヘラクレスとオンファレ」1537「アダムとイヴ」1537
「ヴィーナス」1532、「正義の寓意」1537、「泉のニンフ」1537、クラーナハ「ルクレティア」1533
陰鬱なドイツ、ルネサンスの光が射さない暗闇
ルーカス・クラナッハ(Lucas Cranach der Ältere、1472年10月4日 クローナハ生まれ、オーバーフランケン1553年10月16日、ヴァイマルに死す)は、1505年頃にウィーンで画を学ぶ、ザクセン公国の都ウィッテンベルクで、神聖ローマ帝国ザクセン選帝侯に宮廷画家として仕える。寓意画、神話画、キリスト教絵画を、大規模工房で大量生産した。16世紀ルネサンスの時代、一点透視図法、空気遠近法、写実的な近代絵画技法に基づくルネサンス絵画の技法の時代に、平面的な宮廷様式で制作した。
神聖ローマ帝国、中世ドイツ封建国家の詐欺
オットー1世は、西欧最大の封建国家を捏造した(962年)。捏造された神聖ローマ帝国(962—1806年)は、19世紀まで存続し、ハプスブルク家の権力の源泉の一つとなる。
宗教改革の欺瞞
ルター「95か条の論題」(1517年)、は「魂の救済は福音書への信仰のみによる」としたが、これ自体が虚偽、詐欺である。「魂の救済は愛と知恵による」
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
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クラーナハ展、国立西洋美術館
2016年10月15日(土)~2017年1月15日(日)
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2016cranach.html
http://www.tbs.co.jp/vienna2016/
1:蛇の紋章とともに─宮廷画家としてのクラーナハ
2:時代の相貌─肖像画家としてのクラーナハ
3:グラフィズムの実験─版画家としてのクラーナハ
4:時を超えるアンビヴァレンス─裸体表現の諸相
5:誘惑する絵─「女のちから」というテーマ系
6:宗教改革の「顔」たち─ルターを超えて
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★Lucas Cranach, Judith with nead of Holofernes
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