大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第87回
灼熱の夏の午後、美術館に行く。ヴェネツィアでみたジョルジョーネ『嵐』、ドレスデンでみた『眠れるヴィーナス』を思い出す。ヴェネツィア、アカデミア美術館を散歩した日。水煙の煙る春の午後。
グランド・カナルを船で行き、サン・マルコ広場に上陸すると、サン・マルコ寺院は黄金の残照に輝く。夢の都。水の都、迷宮都市。ヴェネツィアの干潟(ラグーナ)の上に立つ、幻の都市。夢うつつの迷宮都市。
アカデミア美術館は、1817年に建設された。色彩のヴェネツィア派といわれるが、暗鬱な色調のキリスト教美術。私は、ヴェネツィア、フィレンツェ、ドレスデンで見た、ヴェネツィア派の絵画を思い出す。ゴルジョーネの謎の絵画。
美は真であり、真は美である。これは、地上にて汝の知る一切であり、知るべきすべてである。
はちみつ色の夕暮れ、黄昏の丘、黄昏の森を歩き、迷宮図書館に行く。糸杉の丘、知の神殿。美しい魂は、光輝く天の仕事をなす。美しい女神が舞い下りる。美しい守護精霊が、あなたを救う。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
■多産と豊饒の象徴、ヴィーナス
ヴェネツィア最大の巨匠ティツィアーノ ティツィアーノは、ヴィーナスとクピドをよく描いた。ヌードのヴィーナスは、結婚の記念画として愛好された。ヴィーナスは、多産と豊饒の象徴である。
ティツィアーノ『ウルビーノのヴィーナス』(1535)。ヴィーナスの膚は、煌めいている。線はない、色彩の魔術。宝石のように輝く皮膚の美。
■謎の画家ジョルジョーネGiorgione、謎の絵画
ティツィアーノの師は、ジョルジョーネである。若くして亡くなった。青春の画家である。
ジョルジョーネ『嵐 テンペスト』1505—8 嵐の瞬間を描いた傑作。西洋絵画史、最初の風景画。
ジョルジョーネ『テンペスト』(1505)は、乳呑児を抱く裸婦、立ち尽くす男、嵐、意味不明な、「謎の絵画」である。
ジョルジョーネ『眠れるヴィーナス』1510。自然描写のなかに眠れるヴィーナス。
ヴェネツィア派で、よく描かれる構成となる。
■ヴェネツィアの黄金時代、11世紀から15世紀。
ヴェネツィアは、地中海、エーゲ海に船で君臨した。栄光の海都市国家は、滅亡した。
これからが、これまでを決める。
変わることなく、とこしえに、揺るぎもしない。かくも試練に耐えた心のあるかぎり。地上は決して砂漠ではない。(バイロン)
★1500年、レオナルドは、ヴェネツィアを訪れ、ヴェネツィア人に、スフマートを教えた。
★ヴェネツィア・ルネサンスは、1440年ころから1580年まで。
ベッリーニから、ティツィアーノまで。
■19世紀、滅びの都ヴェネツィアを愛する。ロマン派詩人たち
ロマン派詩人は、イタリア、ヴェネツィアを愛した。ロマン主義は、1798年から1836年まで。1818年、詩人シェリーはメアリーを連れてイタリアに赴き、フィレンツェ、ピサ、ナポリ、ローマ各地を転々としながらプラトンの『饗宴』を翻訳し、詩『縛を解かれたプロメテウス』を作った。詩人バイロンは、ヴェネツィアをたびたび訪れた。
ロマン派詩人は、自由奔放と愛を追求して、地中海へ旅する。
■ワーズワース「ヴェニス共和国の滅亡」
(William Wordsworth,On the Extinstion of the Venetian Republic)
彼女はかつて華やかなる東洋を領有し、
そしてまた、西方の防衛なりき。
ああヴェニス、初めて生まれし自由の子、
その価値は誕生を辱めることなかりき。
かつて征服されたることなき輝かしき自由の市、
いかなる狡計も篭絡(ろうらく)することなく、いかなる暴力も犯すことなかりき。
ヴェニスがその配偶を娶らんときは、
永劫の海原を彼女は選ぶべかりき。
かかる栄光あせ、光栄ある称号消え失せ、
その力衰うるを見るも何をかせん。
それど追惜(ついせき)の貢物は
その永き歴史の終わる日にぞ払わるべき。
われらは人間、かつて華やかなりしものの影、
消えて跡なきに至るとき、悲しむべきものなり。
田部重治訳『ワーズワース詩集』岩波文庫1957
■
ヴェネツィアの3大巨匠 ティントレット、ヴェロネーゼ、パッサーノ
パオロ・ヴェロネーゼ『レヴィ家の饗宴』1573
カルパッチョ『リアルト橋の奇跡』1496
ジェンティーレ・ベッリーニ『サン・ロレンツォ橋での聖十字架の遺物の奇跡』
Miracolo della Croce caduta nel canale di San Lorenzo 1500年
■★謎の画家ジョルジョーネGiorgione,1477—1510
ジョルジョーネは、33歳頃亡くなった。作品はわずかに6点しか現存していない。
ジョルジョーネ『嵐 テンペスト』1505—8
ジョルジョーネ『眠れるヴィーナス』1510
■★ヴェネツィア最大の巨匠ティツィアーノTiziano,1488—1576
ティツィアーノは、80代まで画きつづけた。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『聖母被昇天』1516—1518、ティツィアーノ20代の作品、出世作。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『受胎告知』1559年-1564年頃サン・サルバドル教会
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『ウルビーノのヴィーナス』1535
■大久保正雄『地中海紀行』
ヴェネツィア 迷宮都市 美への旅
https://t.co/hjc7vHF74b
ヴェネツィアの黄昏
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-363a.html
■展示作品
パオロ・ヴェロネーゼ『レパントの海戦の寓意』
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『受胎告知』1563-65年頃
サン・サルヴァドール聖堂
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子」「アルベルティ―ニの聖母」1560年頃
■アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち
ジョヴァンニ・ベッリーニからクリヴェッリ、カルパッチョ、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼまで
2016年7月13日(水)~10月10日(月・祝)国立新美術館
http://www.nact.jp/exhibition_special/2016/venice2016/
2016年10月22日(土)~2017年1月15日(日)国立国際美術館
★Giorgione, Venus1510
★Giorgione, Tempesta1505—8
大久保正雄2016年8月21日
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