「始皇帝と大兵馬俑」・・・皇帝の猜疑心と残虐
紅葉の森を歩いて、博物館に行く。博物館は、夢と冒険の宝庫。見果てぬ夢の果ての幻の地。
現代でも権力の頂点に立つ悪霊がいる。皇帝の猜疑心と残虐。恨みの血は、千年地中に埋もれて、土の中で宝玉となる。皇帝の悪霊は、天によって滅ぼされる。恨血千年土中碧。天誅下るべし。苦難を超えて、美と真実は蘇る。
博物館のソファで微睡んでいると岸田劉生の蒐集家に出会う。「岸田劉生の絵画40点、所蔵している。幻の麗子像がある。劉生は、写実で麗子を描いたのではなくわが子への強烈な思いが籠もっていた。初期伊万里200点所蔵。軍艦島端島に写真撮影に行ったが異民族の怨念の籠る島なので行かないほうがいい」と蒐集家は語る。
美への旅、大久保正雄『旅する哲学者』『哲学の迷宮』より
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【秦、始皇帝】嬴政・・・権力の頂点に立つ者の猜疑と残虐
始皇帝(紀元前259年 - 紀元前210年)は、中国戦国時代の秦王(在位紀元前246年 - 紀元前221年)。姓は嬴(えい)、諱は政(せい)。父が、敵国趙の人質であったため、趙で苦労した。13歳で秦王となって、わずか9年にして、統一をなし遂げる。
死後なお地下帝国に君臨しようとした秦始皇帝の凄絶な欲望。権力に憑かれた人間の妄執。几帳面で、細部を一一記憶し、偏執狂的な性格。末梢にこだわる。一度の誤りも許さず、何年も記憶する。
権力の頂点に立つ皇帝の猜疑心と暴虐と妄執。周到な猜疑の目、苛烈、残忍な暴君。権力に盲従する取りまき、扈従の群れ。この世の悪霊。悪霊は、天によって滅ぼされる。
大久保正雄『旅する哲学者』より
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【戦国七勇】秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓
春秋時代は晋と楚の二大強国の時代、 戦国初期はその流れを受け、三晋(魏・趙・韓)と楚が強国でそれに次ぐ斉。群雄割拠する実力と騙し討ちと下剋上の時代。
【戦国時代の学術】春秋末期から戦国中期、諸子百家があらわれた。古今の人を、上上聖人、上中仁人、上下智人、中上、中中、中下、下上、下中、下下愚人。九種類に分類する。(王充『論衡』)道家は上人以上を語り、法家は中人以下を管理する。諸子百家は、共存しうる。
【嬴政】
嬴政(えいせい)に仕えた兵法家尉繚によると、「目は切れ長で、鼻は非常に高く、鳩胸。」「声は山犬のよう」「他人を食い物とし、必要とあらばどんな人間にもへりくだる。」「王が中華統一をすれば、みな奴隷となる。」将軍、王翦は「大王は粗暴で、誰も信用しない。」「一度疑ったら死ぬまで疑い続ける」。
戦国の七勇のなかで、わずか9年にして、統一をなし遂げる。情報収集力にたけ、敵国に何人も間者を送った。中国史上最強の暴君として名を留める。
【暴君】「敵を殲滅する力と、維持をする力は別である。」「万里の長城建設など、人々の苦しみを理解しない。」
【法治主義 韓非子】秦の将軍蒙恬(もうてん)が匈奴を討伐した宴の席。(紀元前215年~214年)「古い王朝の在り方を見習うべき」という意見があった。嬴政は、丞相の李斯に相談する。「時代に合わせて変化しない法など、無意味である。」嬴政は、「韓非子」に基づいて判断した。
【焚書坑儒】「学者は古い書物を持ち出し、喚きあうだけ。」「現実を見ようとせず、机上の空論を正しいものとし邪魔をする。」紀元前213年。丞相の李斯は「国庫にある古い本以外、全て捨てるべき。」と進言。嬴政もこれに同意し、許可する。
【坑儒】学者廬生は「処刑を楽しんでばかりで中華は震え上がり、うわべの忠誠を尽くす。」「天下を我が物とする独裁者なり」と進言した。
嬴政は、460人近い学者を集め、質問攻めにする。しかしどの学派の学者に聞いても、誰かの悪口を言うのみで、正しい情報が得られない。その場の全員を捕え、紀元前212年、捕えた全員を生き埋めにする。
★参考文献
鶴間和幸『ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国』講談社2004
鶴間和幸『人間・始皇帝』岩波新書2015
平勢隆郎『都市国家から中華へ 殷周 春秋戦国』講談社2005
吉川忠夫『秦の始皇帝』講談社学術文庫
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★「始皇帝と大兵馬俑」東京国立博物館
2015年10月27日(火) ~ 2016年2月21日(日)
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1732
★「アート オブ ブルガリ 130年にわたるイタリアの美の至宝」東京国立博物館表慶館
2015 年9 月8 日(火)-11 月29 日(日)
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1733
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